ウィンウッド夫人のスパイ・シリーズ

クリスチャン・リージェンシー・ロマンティック・サスペンス連作小説

短い結婚生活の苦しみを経て、ようやく心の平安を取り戻しつつあった未亡人ウィンウッド夫人。
しかし、過去に隠された秘密と、新しく出会った仲間たちが、彼女を思いがけない危険の世界へと導いていく。

やがて夫人は、小さな“スパイ組織”の中心人物として、ナポレオンの勝利をもくろむ闇の勢力と対峙することに。
彼女と仲間たちは、迫りくる陰謀を阻止できるのか——?

本シリーズは、原書版とイラスト入りライトノベル風日本語版の両方でお楽しみいただけます!

独身淑女のクリスマス

イングランド、ドーセットシャー

一八一〇年十二月二三日

「小姑のような人にブツブツ言われるのはうんざりだわ」ウィンウッド夫人は、自分の旅馬車の向かいの席にゆったり腰掛けている連れ合いに言った。

 その「小姑のような人」とは、実際には四十代の壮健な男性で、顔つきはいかめしいが、口の端から穏やかな微笑みを浮かべていた。顎は二十年前と同じように引き締まっていないかもしれないが、ロンドンで初めてローラ(ウィンウッド夫人)に出会った頃と変わらずハンサムで、本人もそう思っていた。

「悪口しか言えないのかい、ローラ?」ソロモン・ドライデールは物憂げに言った。

「馬車のドアを開けて、外に蹴飛ばした方がよかったかしら?」

 これに対しソル(ソロモンのこと)は、臆面もなく歯を見せてニヤッと笑い返した。

「ご自分の馬に乗ってついてくるより、私の馬車に乗りたいとおっしゃったのは、あなたよ」ローラは続けた。「だったら車軸のばねがどうのこうのとか言って、騒ぐのは止めてちょうだい。これはあなたのじゃなくって私の馬車よ」

 ソルは降参、という意味で手を上げた。「君の言う通りだ。どうか赦してください」このチャーミングな半笑いで、とても気難しい未亡人の憤りが和らげられないことは決してなかった。

 ローラは目をぐるりと回して呆れた表情をみせた。

『独身淑女のクリスマス』より抜粋